生きる化石と言わざるを得ない隣人

この最果ての地はスキーリフトができた40年前ごろからスキーリゾート地として栄え始め、今では(残念なことでもあるが)続々と新しいシャレーが建てられている。

しかし、このリゾート地化の時代の波に抗い祖先の代より続く酪農業と乳業を今も行っている人も少なくなりつつはあるが存在する。私の家周辺にはそのような人たちの築100~200年のシャレーが点在し、中には生活様式も昔のままの人がいる。

その代表(といってもその人が唯一)が私の隣人”ギドンさん”である。

夫婦で酪農を営む彼らの生活は周囲の人いわく、「フランス革命時から変わっていない」らしく、未だに薪の火で料理を作ったり家畜の体温で家を温めている”そう”なのだ。

というのも、自分の目で確かめたわけではないからだ。私は彼らと仲がいいので家の中に入ればわかることなのだが、ほんのりなら心地良いトレビアーンな香りも彼らの家では100倍に濃縮され、まるで入る者を拒むかのような結界ばりの強烈なにおいとなっているため入ることがためらわれるのだ。

どのぐらいの強烈さか一般人にも分かるエピソードがある。

ギドンさんたちは私の母親と若いころから付き合いがあり仲がいい。そのため新年等には手紙の交換をしたりするのだが、この前※日本に住む※母が手紙を回収しようと郵便受けに近づいたところ、「あ、ギドンさんから手紙が来ている」と郵便受けを開ける前にわかったそうだ。

たしかに彼らから手紙は来ていたのだがなぜわかったのか?

なぜならその手紙は彼らの結界に包まれており、その手紙からトレビアーンな香りが放たれていたからだそうだ。9000kmの距離を超えそのオーラを伝えるギドンさん、恐るべし。

ちなみに彼らの家の入口で私たちを最初に出迎えてくれるのは人ではなく牛のおしりだ。