これは私の印象なのだが、フランス人は日本人に比べインフルエンザに罹ったときの症状が深刻で、毎年多数の死者を出しているこの病は日本よりも恐れられている。
しかしこちらの人は”他人に病気をうつさないように気を付ける”という概念がなく、風邪をひいていても、インフルエンザにかかっていても、病院であってもマスクをしている人は見かけない。
”少ない”ではなく”いない”のだ。
そんな状況なのだからインフルエンザが恐れられるのも少しわかる。
先日の夕食で叔母より大婆様がインフルエンザを患い苦しんでいると聞いた私は状況を確かめるべく、早速彼らに電話をした。
電話に出たのは大爺様。
彼が言うには大婆様は数日前より寝たきりになり、病のせいで食事を作ることができずに彼が代わりにすべてを行っているとのこと。
しかし彼の声色からは心配の色が見えない。
大爺「今大婆様起きて、ベッドでiPadで遊んでるけど話す?」
へ?
大婆「アロアロ、ペーター?元気?私は病気のせいで疲れて仕方がないよ」
意外と元気そうだったので安心した。
フランス人は何か話をすると大げさだから困ったもんだ。
疲れ以外は特に目立った症状はなく、普通に食事もとれるようなので(あまり料理のできない大爺様が現在代わりに食事を用意しているので大したもの食べてないだろうなぁ)彼らのために後日、体力の付きそうな料理をふるまってあげることを提案した。
ペ「ぐらんめぇ、明後日昼食御馳走するから来ていい?」
婆「うちに来るの?うれしいわ。じゃあ、御昼ごはんは大爺に何か買ってこさせるわ」
ペ「大丈夫だよ、大婆のインフルエンザが早く治るような料理をつくってあげるから何も買わないで」
婆「いや、悪いわ。何か買ってくるわよ」
ペ「いや、早く元気になってほしいから何か作らせて」
婆「でも買い物とか、料理を作るの大変でしょ」
ペ「大丈夫、簡単な料理だよ(おとなしく作らせろや!)」
婆「ありがとう、わかったわ。じゃー待ってるわね」
うちの大婆様はとても心配性なのである。
彼らの住んでいるアヌシーまではうちから車で約30分。
当日は心地の良い晴天で、レ・コンファンとアヌシーは1000mほどの標高差があるため気温はまるで別世界。
その陽気はこの時期にしては異常で日陰でも15度を上回り、日向では半袖でも寒くないほどである。
ピンポピンポーン!
ペ「ぼんじゅーるぐらんぺぇ!」
もうすぐ92歳になる大爺様は相変わらず少し足を引きずっているが元気そうだ。
そして肝心の大婆様はベッドで横になってはいるものの、特に気になる様子はなく思っていた以上に元気だった。
少し話をした後、時間も12時近くになっていたので料理の準備を開始。
今回の料理は生姜ポトフ。
体がよく温まり食欲も湧く上、いろいろな野菜が入っていて体調不良時にはもってこいのメニューだ。
材料は生姜、じゃがいも、ニンジン、カブ、玉ねぎ、ふとねぎと豚肉。
はじめはカレーと同様ニンジン、玉ねぎと豚肉(食べやすいよう薄くスライスするのだが、一度冷凍しておくとスライスしやすい)を先に炒めてから水と残りの野菜、薄切り生姜とコンソメキューブを圧力鍋に入れて蓋をして煮込む。
私は煮過ぎた野菜は好きではないのだが消化にいいよう、圧力をかけてよく煮る。
準備時間30分。大婆様に「もう終わったのかい!?」と言われてしまうほどの超お手軽料理だ。
できた料理は大好評で私が思っていた以上に二人とも食べてくれた上、分量もカレーの失敗から学びバッチリだった!
しかし毎回料理をつくる際に忘れてしまうことがある。
「味見」だ。
せずとも失敗することは少ないのだが、早い段階から味の修正ができるように味見をする癖をつけねば。
食後はいつも通り、彼らの若かりし頃の話やアヌシーが超田舎町だった時の話(非常に興味深い)、友達の息子の妻の名前はなんだった等の話(非常にどうでもいい)を祖父母から聞いたあと、大婆様が今回のインフルエンザに罹ったいきさつについて話し出した。
婆「毎年医者にすすめられて予防注射を打っているのだけど今年はやらなかったの」
ああ、なるほどそれで普段はかからないインフルエンザになったのか。
婆「でこの前医者に行ったのだけど、待合室にあまり体調の思わしくない人がいてその人に移されたのだと思うわ」
うーむ、
医者には行くべきなのか、行くべきではないのかよくわからない話である。