フェイント。冬へと逆戻り3

数年前にも一度訪れたフランスのグランドキャニオンと呼ばれるこの場所。
「Gorges du Verdon :ヴェルドン渓谷」

300mにも達する断崖絶壁とその下に流れるエメラルドグリーンの川、そして村1つが底に眠る巨大なダム湖。それを囲う草木の中にはフランスの家庭料理でよくつかわれる香草のタイムがそこらじゅうに生え、その南仏の香りがそよ風にのって心地よく鼻をくすぐる。

明確な理由はなかったのだが、南仏へ来たついでに無性にこの絶景に会いたくなり戻ってきたわけだ。
まずはダム湖へと向かう。なぜならこのダムの底に眠る村の教会の鐘が湖面から出ているのが見えるスポットがあり、前回来たときには知らずに素通りしてしまったからだ。

ダム建設により移転させられ、沈んだ村と同じ名を持つ村に着き、湖岸から湖面を見渡す。
しかし教会の鐘らしきものは見えない。湖岸をいくつか梯子しても鐘は見当たらない。
ダム湖の見どころ案内の看板にも載っていない。
水辺に腰かけ携帯電話でネット検索をかけるも写真や動画、その歴史といきさつ等は出てくるのだが、位置情報は皆無。
村人に聞けばよかったのだが、変なところでシャイな私はそれもできず。

恐らく水位が高過ぎて、完全に沈んでいて見えないのであろう。

私はそう判断し次の場所へと向かった。そう、メインは渓谷なのだ!
「ヴェルドン渓谷左回りルートはコチラ」という道路標示を発見しそれに従う。

フランスのグランドキャニオンの絶景が目前に広がる。
素晴らしい眺め。
前回来たときはフランスに住み始めて間もないころだったのでその時の思い出が同時に蘇る。

・・・前来た時は(今は別れた)彼女と一緒だったな・・・
彼女とはいろんな所へ行ったなぁ・・

いかーんッ!

未練の悪魔を振り払い、気を取り直して景色を楽しむ。そして前回来た時にはほとんど停まらずに写真も全くといっていいほど撮らなかったので今回は前回の分を取り戻すべく惜しみなく写真を撮る。
一つ残念なのが、撮影器具が携帯電話しかないこと。私のカメラはネパールへと旅立った妹によって連れ去られてしまったのだ。
そういえば前回もカメラを持って来てなくてケータイで写真を撮ったなぁ・・・彼女と来た前回は・・・

いかーんッ!!

執拗に追いかけてくる未練の悪魔め!もう彼女はいないんだ!私は一人身で自由なんだッ!!
気を取り直して道を続ける。すると渓谷の左側と右側をつなぐ断崖絶壁につくられた橋が見えてきたので、そこから谷底を覗くため駐車し歩いて橋を渡る。
本当にすばらしい・・雄大な自然と地球が生み出したこの地形。
この自然を前に人間はなぜこうも我が物顔でまるで自分たちが地球で一番偉い存在であるかのように振る舞えるのだろうか。
と物思いにふけりながら車に戻っている途中別のあることが頭に浮かんだ。

この橋以前と何か雰囲気が違う?前に来たときは駐車スペースが向こう側にあってこっち側にレストランなんてなかったような・・前回彼女と来たときは・・・

キェェェェッ!!!また出たな未練の悪魔!

・・・もうええわ。

私は彼を追い払うのをあきらめて未練の悪魔を助手席に乗せ観光を再開した。

そうこうしているうちに折り返し地点に。「渓谷の反対側はこっちだョ」という看板に従い道を続けているとある違和感が。

ペ「ん?見たことある景色だな。」

まぁ、すでに一回来ているから不思議なことではないが。

しかし運転を続けると見たことのあるどころか先程見た景色、あの橋が見えた。
どうやら知らないうちに来た道へと戻されていたようだ。

まぁ、、、いっか!
違う角度から景色を楽しめるだろうし。
とういうことで来た道を引き返してダム湖へ到着した。時刻は午後5時。この時点で自宅へ帰るための行程は半分以下しかしていない。
しかしせっかく来たこともあり渓谷の反対側も走ることにしてドライブを再開。
途中でダム湖のほぼ全体を見渡せるポイントがあり、停まってそこから例の鐘を探したが・・・なし。
やはり水位が高すぎたのであろう・・・高すぎたのである!
これで未練はない。

渓谷反対側の道も素晴らしい絶景。先程通った道とは全くといっていいほどの違う景色だ。
ところどころで停車し写真をパシャパシャ。
渓谷を十運に楽しみ、先程通った村が見えてきたのでそこに着く一歩手前で駐車してカーナビで自宅までの道を検索。
すると、来た道を引き返してという表示・・・
結局今日はヴェルドン渓谷を2往復、この観光スポットだけで100km以上走った。

帰り道に素晴らしい断崖絶壁の麓にあるきれいな村を発見したのだが、助手席で先程までおとなしくしていた未練の悪魔があそこに行きたいと騒ぎ出したのでスルーすることに。
あの村は・・覚えている。未練の悪魔を連れて行くには危険すぎるスポットだ。

1時間ほど運転を続けていると南下時に通った道へと合流。1週間前に給油した最安ガソリンスタンドで給油し、夜8時半、南下時と同じピクニックエリアで夜を過ごした。

翌朝、枕の存在により80%の快眠を得た私は少し疲れを感じつつノンストップで自宅まで運転し、午前11時半自宅に到着。
その疲れを癒すためにシャレーの湯船にビールを飲みつつ浸かる。
風呂から上がり自宅に戻るために着替えていると、

ペ「あ、替えのTシャツ忘れてもた。」

ということで上半身裸の短パン姿で戻る羽目に。
外は雨。しかも寒い。天気が悪いのは先週だけの予報だったのに。

その夜、異常な寒気のあと体温が上昇、悪夢にうなされた。

(((((ドゥォオンッ!!!)))))

翌日の朝6-7時ごろ自宅を震わせるほどの爆発音により苦痛の朝は始まった。
この爆発音により外を見ずとも私はすべてを悟ることができた。

ぺ「マジかよ・・シーズン中は全く降らなかった癖に。」

そう、雪である。この轟音は雪が降った際に雪崩が起きやすいポイントで予め人工的に雪崩を起こしてゲレンデオープン中の事故発生を未然に防ぐための雪崩発生装置の音だ。
雪などどうでもいいぐらい不快な夜を過ごした私は目覚ましを切り、布団を頭までかぶりもう少し寝ることに。

目が覚めた。時間は・・・昼の12時。
体調は最悪。だるさ、めまい、頭痛、前回の体調不良とは比べ物にならない正真正銘の病気である。
し、しかし病は・・・気からじゃー!!!

自分に鞭をうち普段どおり仕度をし、やるべきことをこなす。
シャレーに行き、届いたスピーカーを試しにアンプへとつなぎ音楽を試聴。
このスピーカー、25日に到着すると言っておきながら実際に来たのはなんと19日。運よく叔父がいたので代わりに受け取ってもらえたが、本人確認などはこの国はしないようだ。もしシャレーにいたのが私と無関係の客だったらどうするつもりだったのだろうか・・・

そうこうしているうちに短い一日は終わり、その日は早めの午後11時に就寝。体調はすでによくなり始めていた。

そして翌朝。

(((((ドゥォオンッ!!!)))))

マジか。まだ降っているのか?

体調はすっかり回復し、普段通りの朝8時に起床。
自分でも驚くほどの回復力。やはり自然に生きると強くなる!

外を見ると・・・大雪。4月も終わりに近づき5月に入ろうというのに厚さ30cmはあろう雪景色が外に広がっていた。

んざむ”-い!!